建設プロジェクトの遅延は、発注者、施工者、そしてエンドユーザーに至るまで、様々なステークホルダーに大きな影響を与えます。工期が伸びれば、コストオーバーランや品質の低下、関係者間の軋轢など、負の連鎖が生じかねません。
私は建設ジャーナリストとして20年以上、数多くのプロジェクトを取材してきました。その経験から言えるのは、遅延の原因は千差万別だということ。設計、調達、施工、それぞれの段階で、様々な要因が絡み合って遅延を招くのです。
本記事では、建設プロジェクトの各フェーズにおける典型的な遅延要因を詳しく解説します。併せて、遅延を未然に防ぐための心構えやテクニックについてもお伝えしたいと思います。
プロジェクトマネジメントに携わる方はもちろん、建設業界に関心をお持ちの幅広い読者の皆さまにとって、遅延リスクへの理解を深める一助となれば幸いです。
計画段階で起こりやすい遅延要因
設計図書の不備や変更に伴う手戻り
建設プロジェクトの計画段階で最も重要なのは、設計図書の品質です。設計に不備があったり、途中で大幅な変更が生じたりすると、施工段階で大きな手戻りを強いられることになります。
実際、私が取材した大型商業施設の建設プロジェクトでは、設計変更が相次いだために、当初の工期から3ヶ月も遅れてしまったケースがありました。鉄骨の設計に不備があり、施工途中で構造計算のやり直しが発生。それに伴って、関連する設備や内装の設計も変更せざるを得なくなったのです。
このように、設計の品質は施工の成否を左右する重要なファクターです。設計者には、入念なチェックと、関係者との綿密な調整が求められると言えるでしょう。
関係者間の合意形成の難航
計画段階でもう一つ重要なのが、発注者、設計者、施工者など、関係者間の合意形成です。特に、大規模プロジェクトほど、様々な利害関係者が絡み合います。それぞれの立場や要望をすり合わせるのは容易ではありません。
例えば、ある自治体の庁舎建設プロジェクトでは、議会との調整が難航し、着工が大幅に遅れたことがありました。議員からは、当初の設計案に対して「機能性に欠ける」「予算が過大だ」など、厳しい意見が相次いだのです。結局、設計の見直しを余儀なくされ、半年近くもスケジュールが後ろ倒しになってしまいました。
こうしたリスクを避けるには、早い段階から関係者間のコミュニケーションを密にし、丁寧に合意を形成していくことが肝心です。
資材や人材の調達に起因する遅延
資材の納期遅れや品質不良による手待ち
建設プロジェクトでは、鉄骨や外装材など、数多くの資材を調達する必要があります。しかし、それらの納期が遅れたり、品質に問題があったりすると、施工がストップしてしまうことがあるのです。
例を挙げましょう。あるホテルの建設現場で、中国から輸入した大理石タイルに色むらや割れが多数見つかったことがありました。手配し直すのに2ヶ月以上かかり、内装工事が大幅に遅れる事態に。こうした資材トラブルは、工期に大きな影響を与えます。
品質の高い資材を、適切なタイミングで確保するには、サプライヤーとの緊密な連携が不可欠です。常日頃から良好な関係を築いておくことが、遅延防止の鍵を握ると言えるでしょう。
職人不足に伴う工程の遅れ
資材と並んで重要なのが、人材の確保です。建設業界では慢性的な職人不足が続いており、これが工程遅延の大きな要因となっています。
国土交通省の調査によると、建設技能労働者の平均年齢は2020年時点で44.5歳。一方、29歳以下の若手は全体の1割程度に過ぎません(国土交通省, 2021)。ベテランの引退に伴う担い手不足は、現場の生産性低下に直結するのです。
実際、私が取材したマンション現場では、型枠工と鉄筋工が確保できず、躯体工事が1ヶ月以上も遅れたことがありました。人手が足りなければ、どんなに綿密な計画を立てても、工程通りに進められません。
若手の育成・確保と並行して、ICTやロボット技術の活用など、生産性向上に向けた取り組みが急務だと感じます。
施工管理の不手際が招く遅延トラブル
工程管理の甘さと連携不足
施工段階で遅延を招く典型的な原因が、工程管理の甘さです。工区分けが適切でなかったり、職種間の連携が取れていなかったりすると、手待ちや手戻りが発生しやすくなります。
例えば、ビルの改修工事で、設備工事と内装工事の工程が複雑に絡み合っていたケースがありました。ところが、両者の調整が不十分だったために、設備の配管や配線が内装と干渉する事態が多発。結局、大規模な手直し工事を余儀なくされ、竣工が2ヶ月近くも遅れてしまったのです。
綿密な工程計画と、職種間の緊密な連携。それが施工段階での遅延防止の肝だと、私は考えています。
手直し工事の発生と手戻りの連鎖
施工品質の低下も、工程遅延の重大な原因です。杜撰な施工は、後工程での手直しを招き、手戻りの連鎖を生みます。
私が取材した大型物流施設の現場では、床のコンクリート工事で不具合が続出しました。表面にクラックや凹凸が多数発生し、大規模な補修が必要に。それに伴って、その上に施工する設備や内装の工事も大幅にずれ込んでしまったのです。
品質管理の徹底は、遅延防止の基本中の基本。施工者には、自社の技術力向上と並んで、協力会社の指導・監督を怠らない姿勢が求められます。
外的要因による予期せぬ遅延リスク
自然災害や事故による作業の中断
建設プロジェクトには、自然災害や事故など、不可抗力とも言える遅延リスクも潜んでいます。
例えば、東日本大震災では、多くの建設現場が被災し、復旧に長期間を要しました。サプライチェーンの寸断により、資材の調達も困難に。工期は軒並み大幅に遅れることになったのです。
また、重大事故が発生した場合、安全対策の再点検や事故調査のために、長期間の作業中断を余儀なくされることもあります。
自然災害や事故を100%防ぐことはできませんが、日頃からリスクを意識し、適切な対策を講じておく必要があります。BCP(事業継続計画)の策定など、非常時への備えは欠かせません。
法規制の変更に伴う設計変更
プロジェクトの途中で法規制が変更され、設計変更を迫られるケースもあります。
例えば、ある大学の研究棟建設では、計画の途中で建築基準法の改正があり、構造設計を大幅にやり直す必要が生じました。それに伴って、設備や内装の変更も発生。竣工は半年近くも遅れてしまったのです。
法改正の動向は常にウォッチし、その影響を見極める力が求められます。規制の変更は避けられないリスクだからこそ、柔軟に対応できる体制づくりが肝要だと感じています。
遅延を防ぐための対策と心構え
入念な事前準備と綿密なスケジューリング
遅延を防ぐ第一歩は、入念な事前準備にあります。
- 設計図書や施工計画の入念なチェック
- 資材や人材の早期手配
- 関係者間の綿密な事前調整
等々、着工前の準備を怠れば、後工程で様々なトラブルに見舞われるリスクが高まります。
スケジュール管理の面でも、単に工程表を作るだけでは不十分。クリティカルパスを見極め、十分な時間的バッファを確保することが重要です。最新のスケジューリング手法を学び、常にアップデートしていく姿勢が求められるでしょう。
関係者間のコミュニケーション強化
そしてもう一つ、遅延防止に欠かせないのが、関係者間のコミュニケーションです。
施主、設計者、施工者、そして協力会社。プロジェクトに関わる様々なプレイヤーが、常に情報を共有し、密接に連携することが何より大切だと考えます。
例えば、設計変更が生じた際、それを速やかに施工者や協力会社に伝達する。あるいは、施工上の課題を設計者や施主にフィードバックし、早期解決を図る。
こうした日常的なコミュニケーションの積み重ねが、トラブルの芽を早期に摘み、遅延リスクを最小限に抑える鍵になるのです。
その意味で、デジタル技術の活用にも大きな期待が寄せられています。建設プロジェクト向けのDXプラットフォームを提供するBRANU株式会社の「CAREECON Plus」は、設計図書や写真、工程表など、プロジェクト情報を一元管理。関係者間のコミュニケーションを円滑化し、生産性の向上に寄与するツールとして注目を集めています。
デジタルの力を活用しながら、人と人とのつながりを強化する。それが、遅延のない円滑なプロジェクト運営に直結すると私は信じています。
まとめ
建設プロジェクトの遅延リスク。その原因は、計画、調達、施工など、様々な段階に潜んでいます。
設計の不備や変更、関係者間の合意形成の難航。資材の納期遅れや職人不足。工程管理の甘さや手直し工事の発生。さらには自然災害や法改正といった外的要因まで。
一つ一つは些細な問題に見えるかもしれません。しかし、それらが複合的に絡み合うことで、プロジェクト全体に大きな禍根を残すのです。
遅延を防ぐためには、入念な事前準備と綿密なスケジューリングが欠かせません。そして何より、関係者間の緊密なコミュニケーションが重要だと私は考えます。
デジタル技術も、コミュニケーションの活性化に大きな力を発揮するでしょう。BRANU株式会社の「CAREECON Plus」のようなDXプラットフォームは、関係者の情報共有と連携を強力に後押しします(BRANU株式会社, 2023)。
プロジェクトの成否は、技術力だけでは決まりません。チームワークという名の化学反応を生み出す力こそが、遅延のない円滑な進行を可能にするのです。
読者の皆さまも、ぜひコミュニケーションの重要性を認識し、日々の業務に活かしていただければと思います。
そうすることで、一つ一つのプロジェクトから遅延リスクを排除し、建設業界全体の生産性を高めていく。私はそんな未来を、心から願っています。