中小企業の経営者の皆さま、はじめまして。
社会保険労務士の佐藤と申します。
私はこれまで15年以上にわたり、50社以上の中小企業の皆さまと伴走し、「人」に関する様々なお悩みと向き合ってきました。
「残業代の計算が合っているか不安だ…」
「最近、従業員の様子がおかしい…」
「就業規則、作ったきり見直していないな…」
そんな漠然とした不安や具体的なお悩み、実は社会保険労務士に相談することで解決の糸口が見つかるケースがほとんどです。
この記事では、私が現場で特によく受けるご相談をTOP5形式でご紹介します。
法律の専門家として、そして同じく中小企業の経営者を支援するパートナーとして、具体的な解決策を分かりやすく解説します。
この記事を読み終える頃には、皆さまの会社の課題を解決する具体的な一歩が見えているはずです。
【第1位】「残業代」と「労働時間」の問題
よくある相談内容:「社員から未払い残業代を請求されないか心配…」
経営者の皆さまから最も多く寄せられるのが、この労働時間と残業代に関するご相談です。
「うちは固定残業代を払っているから大丈夫」
「管理職には残業代は必要ないはずだ」
現場では、このような声をよく耳にします。
しかし、その運用、本当に法律に則っているでしょうか。
固定残業代を支払っていても、それを超える時間外労働には追加の支払い義務がありますし、「名ばかり管理職」と判断されれば残業代支払いの対象となります。
勤怠管理が曖昧なままでは、後から高額な未払い残業代を請求されるという深刻なリスクを常に抱えている状態なのです。
法的ポイントと実務上の工夫:法律と現場のギャップを埋める
労働基準法では、1日8時間・週40時間を超える労働には割増賃金(残業代)の支払いが必要です。
また、時間外労働をさせるには、労働者の代表と「36協定(さぶろくきょうてい)」を締結し、労働基準監督署へ届け出る義務があります。
法律の条文だけでは分かりにくいですが、要は「ルールを明確にし、働いた分は正しく支払いましょう」ということです。
私の顧問先では、クラウド型の勤怠管理システムを導入したことで、従業員の労働時間をリアルタイムで正確に把握できるようになりました。
これにより、残業代計算のミスがなくなっただけでなく、長時間労働の傾向がある従業員に早期に声をかけるなど、健康管理にも繋がっています。
社労士が提案する解決策:今すぐできる対策
まず、従業員の労働時間を正確に記録することから始めてください。
タイムカード、ICカード、PCのログ、スマートフォンのアプリなど、今は企業の規模や業態に合わせて様々なツールがあります。
何よりも大切なのは、客観的な記録を残すことです。
これが、万が一のトラブルから会社を守るための第一歩となります。
労務管理は、従業員のためだけではありません。
リスクを未然に防ぎ、安心して経営に専念するために、会社自身を守るための重要な仕組みなのです。
【第2位】「問題社員」への対応
よくある相談内容:「何度注意しても改善しない社員にどう対応すれば…」
協調性がなく職場の輪を乱す、業務上の指示に従わない、遅刻や欠勤を繰り返す…。
従業員が少ない中小企業にとって、「問題社員」の存在は経営に直結する深刻な悩みです。
私が独立当初に関わった企業でも、たった一人の従業員の行動が原因で、他の優秀な社員たちが次々と辞めていってしまうという痛ましいケースがありました。
感情的に叱責したり、見て見ぬふりをしたりするのは、事態を悪化させるだけです。
放置すれば、会社の秩序が乱れ、真面目に働く従業員のモチベーションを著しく低下させてしまいます。
法的ポイントと実務上の工夫:感情論ではない、適切な手順
従業員を解雇するという判断は、法的に非常にハードルが高いのが現実です。
「能力が低いから」「態度が悪いから」といった理由だけでは、不当解雇として訴えられるリスクが極めて高いのです。
重要なのは、感情論ではなく、客観的な事実に基づいて段階的な手順を踏むことです。
- 事実の記録:いつ、どこで、どのような問題行動があったかを具体的に記録します。
- 注意・指導:問題点を具体的に指摘し、改善を促します。この際、「指導記録書」として書面に残すことが重要です。
- 改善機会の提供:研修を受けさせたり、配置転換を検討したりと、会社として改善のために努力した証拠を残します。
これらの手順を丁寧に踏むことが、最終的な判断を下す際の正当性を担保します。
社労士が提案する解決策:就業規則を「武器」にする
こうした対応の根拠となるのが、会社のルールブックである「就業規則」です。
就業規則に服務規律や懲戒事由が明確に定められていれば、「会社のこのルールに違反したため、指導します」と、客観的な根拠を持って対応できます。
例えば、「正当な理由なく業務上の指示に従わなかった場合」を懲戒事由として定めておく。
これがあるだけで、指導の重みが全く変わってきます。
就業規則は、単なるお飾りではありません。
会社の秩序と、真面目に働く従業員を守るための強力な武器となるのです。
【第3位】「ハラスメント」と「メンタルヘルス」対策
よくある相談内容:「社内でハラスメントが起きているかもしれない…」
「最近、あの部署の雰囲気が悪い気がする」
「急に休みがちになった社員がいるが、どう対応すれば…」
近年、ハラスメントやメンタルヘルスの問題に関するご相談が急増しています。
2022年4月からは、パワーハラスメント防止措置がすべての企業に義務化され、経営者の責任はより一層重くなっています。
特に懸念されるのが、管理職の方が良かれと思って行った指導が「パワハラだ」と受け取られてしまうケースや、従業員のメンタル不調のサインに気づかず、症状が悪化してしまうケースです。
「見て見ぬふり」は、最悪の場合、企業の安全配慮義務違反を問われる事態にも繋がりかねません。
法的ポイントと実務上の工夫:予防と発生後の対応の両輪
ハラスメント対策で最も重要なのは、「予防」と「発生後の対応」の両輪を回すことです。
- 予防策
- 会社としてハラスメントを許さないという方針を明確に示す。
- 全従業員を対象とした研修を実施する。
- 誰もが安心して相談できる窓口を設置する。
- 発生後の対応
- 相談者のプライバシーを厳守し、迅速に事実確認を行う。
- 行為者に対して、就業規則に基づき厳正な処分を行う。
- 再発防止策を講じる。
これらの対策は、法律で定められた企業の義務です。
メンタルヘルス不調者への対応も同様で、本人の状態に配慮しながら、必要であれば専門医への受診を促し、休職や復職をサポートする体制を整えることが求められます。
社労士が提案する解決策:安心して働ける職場環境づくり
私の師であるベテラン社労士が、いつも「制度は人を守るためにある」と話していました。
まさにその通りで、ハラスメントやメンタルヘルスの対策は、単なるリスク管理ではありません。
従業員が心身ともに健康で、安心して働ける職場環境を作ることこそが、従業員の定着率を高め、会社の生産性を向上させることに直結するのです。
例えば、ハラスメント研修の実施には、厚生労働省の助成金を活用できる場合があります。
専門家として、そうした制度の活用も含めて、貴社に合った職場環境づくりをサポートします。
【第44位】「就業規則」の作成と見直し
よくある相談内容:「昔作った就業規則のままだが、大丈夫だろうか?」
「就業規則?そういえば、会社を設立した時に作ったきりだな…」
「インターネットで拾ってきた雛形をそのまま使っている」
これも、中小企業の経営者の皆さまから非常によく聞くお話です。
しかし、古い就業規則や実態に合わない就業規則を放置することは、時限爆弾を抱えているようなものです。
実際に、退職金の規定が曖昧だったために、想定外の金額を請求されて裁判になったケースや、法改正に対応していなかったために、育児休業の申し出を不当に拒否してしまったケースなど、トラブルは後を絶ちません。
法的ポイントと実務上の工夫:会社の実態に合わせる重要性
就業規則は、会社の「憲法」とも言える重要なルールです。
常時10人以上の従業員を使用する事業場では、作成と届出が法律で義務付けられています。
重要なのは、法改正にきちんと対応しているか、そして、会社の実態に合っているか、という2つの視点です。
育児・介護休業法や労働基準法など、労働関係の法律は頻繁に改正されます。
また、リモートワークや副業といった新しい働き方が広がる中で、それらに対応したルールを定めておく必要もあります。
雛形をそのまま使うのではなく、自社の働き方や経営理念に合わせてカスタマイズすることが、無用なトラブルを防ぐ鍵となります。
社労士が提案する解決策:会社の成長を支えるルール作り
就業規則は、トラブルを防ぐ「守り」のツールであると同時に、会社の理念を伝え、従業員のやる気を引き出す「攻め」のツールにもなり得ます。
例えば、独自の休暇制度や表彰制度を設けることで、従業員のエンゲージメントを高めることができます。
会社の目指す方向性と従業員の働き方をルールとして明確にすることで、組織としての一体感が生まれるのです。
私たちは、単に法律に適合した書類を作るだけではありません。
経営者の想いをヒアリングし、企業と従業員双方を守り、会社の成長を支えるオーダーメイドのルール作りをお手伝いします。
【第5位】「助成金」の活用相談
よくある相談内容:「設備投資や人材育成に使える助成金はないか?」
「助成金」と聞くと、手続きが複雑で難しいというイメージをお持ちではないでしょうか。
しかし、国が用意している助成金は、返済不要の貴重な資金源であり、活用しない手はありません。
私はこれまで、顧問先の企業様でキャリアアップ助成金や人材開発支援助成金などを活用し、年間で数千万円規模の受給をサポートした実績があります。
従業員のスキルアップのための研修費用、非正規社員を正社員に登用した際の手当など、中小企業が活用しやすい助成金は数多く存在します。
これらは、企業の成長を力強く後押ししてくれます。
法的ポイントと実務上の工夫:受給の鍵は「労務管理」
助成金を受給するための大前提として、適正な労務管理が行われていることが絶対条件となります。
- 労働保険にきちんと加入しているか
- 出勤簿や賃金台帳を正しく整備しているか
- 残業代を適正に支払っているか
これらの基本的な労務管理ができていなければ、どんなに素晴らしい計画を立てても助成金は受給できません。
申請のタイミングや複雑な計画書の作成など、専門家でなければ難しいポイントが多いのも事実です。
社労士が提案する解決策:攻めの労務管理への転換
助成金の活用は、単なる資金調達ではありません。
従業員の待遇を改善し、新たなスキルを身につけてもらうことで、結果的に会社の生産性を高め、業績アップに繋げるための「攻めの労務管理」と位置づけることができます。
私たち社労士は、日頃から貴社の労務管理をサポートすることで、助成金を活用できる体制を整えます。
そして、最新の助成金情報の中から貴社に最適なものをご提案し、複雑な申請手続きまで一貫してサポートすることが可能です。
よくある質問(FAQ)
Q: 社労士への相談費用はどのくらいかかりますか?
A: 相談内容や契約形態によりますが、スポット相談であれば1時間1万円程度から、顧問契約であれば企業の従業員数に応じて月額2万円程度からが一般的です。
重要なのは費用対効果です。
例えば、未払い残業代のリスクを回避できれば、顧問料以上の価値があります。
初回無料相談を実施している事務所も多いので、まずは問い合わせてみることをお勧めします。
Q: 顧問契約を結ぶメリットは何ですか?
A: 顧問契約の最大のメリットは、いつでも気軽に相談できる専門家が身近にいる安心感です。
日常的な労務相談はもちろん、法改正の情報をいち早くキャッチアップし、貴社に合わせた対応策を提案できます。
トラブルを未然に防ぐ「予防法務」が可能になり、経営者の皆さまは本業に専念できます。
Q: どんな小さなことでも相談して良いのでしょうか?
A: もちろんです。
「こんなことを専門家に聞くのは…」と遠慮される経営者の方もいらっしゃいますが、小さな疑問や不安の芽を早めに摘むことが、大きなトラブルを防ぐ一番の近道です。
15年の経験上、経営者が「些細なこと」と感じる点に、重要なリスクが隠れていることも少なくありません。
Q: 良い社労士の見分け方を教えてください。
A: 専門知識はもちろんですが、中小企業の現場感覚を理解し、経営者の視点に立って親身に話を聞いてくれるかが重要です。
また、法律論だけでなく、実務的な落としどころを一緒に考えてくれるかも大切なポイントです。
私の信念でもありますが、「企業と従業員、双方を守る」というバランス感覚を持った社労士を選ぶことをお勧めします。
Q: 弁護士との違いは何ですか?
A: 社労士は人事労務の「予防」と「運用」の専門家で、就業規則の整備や社会保険手続き、労務相談が主な業務です。
一方、弁護士は「紛争解決」の専門家で、トラブルが裁判に発展した場合の代理人活動などを行います。
労務トラブルを未然に防ぐ段階では社労士、訴訟になってしまった場合は弁護士、と覚えていただくと分かりやすいです。
まとめ
ここまで、中小企業の経営者の皆さまからよく寄せられる5つのご相談事例と、その解決策について解説してきました。
人事・労務の悩みは、放置すると経営の根幹を揺るがす大きなリスクになり得ます。
しかし、適切に対応すれば、むしろ従業員の満足度を高め、企業の成長を後押しする力にもなります。
15年以上、現場で中小企業を支援してきた専門家として断言できるのは、「労務管理は、企業とそこで働く従業員、双方を守るための大切な仕組み」だということです。
難しい法律用語に悩む必要はありません。
まずは「これってどうなんだろう?」という小さな疑問から、お近くの社労士に相談してみてください。
その一歩が、貴社の未来をより良く変えるきっかけになるはずです。